ペンション経営している個人事業主のお客様からの問い合わせ。

お父様は引退して、息子さんが事業のあとを継ぎたいとのことでした。

そこで、事業の引き継ぎにあたり、税務上留意すべきポイントがあります。

法人企業と異なり、個人企業の場合は、
事業を承継された者の廃業手続きと、事業を承継した者の開業手続き
が必要になります。

ここで、法人企業と個人企業の違いをひとこと。

法人とは、法律によって人としての権利能力を与えられた団体で、
株主が変わろうが、経営者が変わろうが、その人格は同一です。
したがって、法人企業における事業承継では、経営者が変わっても、
その法人は、経営者交代前と同一の納税義務者であり続けます。
だから、経営者の交代は「代表者の異動届」だけですみます。

一方、個人企業においては、個人が所得税、消費税などの納税義務者と
なりますので、事業承継前と同一の顧客に対して同一の屋号を用い、
事業内容は同一であったとしても、たとえ親子でもそれぞれ別々の
納税義務を負うことになります。

よって、
お父様については廃業に伴う税務上の手続きが必要となり、
息子さんについては開業にともなう税務上の手続きが必要になります。

【お父様の廃業に伴う手続き】
(1)所得税
「個人事業の廃業届出書」を税務署に提出する必要があります。
また、他に不動産所得のような所得が無いのであれば、
「所得税の青色申告のとりやめ届出書」を税務署に提出します。

なお、相続による事業承継の場合には、あなたが亡くなった後
4ヵ月以内に息子さんがあなたの所得税の確定申告
(一般に「準確定申告」と言います)を行う必要があります。

事業を承継するに当たって息子さんに資産(または負債)を譲渡する
のであれば、譲渡所得の発生、
贈与するには贈与税がかかる場合がありますので注意が必要です。

(2)消費税
お父様が免税事業者でなければ、
税務署へ「事業廃止届出書」の提出が必要です。
また、簡易課税制度を適用していた場合には
「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」、
免税事業者であるにもかかわらず、
あえて課税事業者を選択していた場合には
「消費税課税事業者選択不適用届出書」などがあります。

 【息子さんの開業に伴う手続き】
(1)所得税
「個人事業の開業届出書」を税務署に提出する必要があります。
また、青色申告を希望する場合には、原則事業開始日から2ヵ月以内に
「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出します
(ちなみに、1月15日までに事業を開始した場合には、3月15日まで、
相続による事業承継の場合は原則あなたが亡くなった後4か月
以内など、提出期限に例外があります)。

他にも「所得税の減価償却資産の償却方法の届出書」、
「所得税のたな卸資産の評価方法の届出書」、
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書兼納期の
    特例適用者に係る納期限の特例に関する届出書」
「青色事業専従者給与に関する届出書」などがあります。

(2)消費税
個人が事業を開始した場合、2年間は免税事業者となるので、
義務的に行うべき手続きはありません。
ただし、事業を承継した年に多額の設備投資が予想され、
消費税の還付を受けられる見込みがあるような場合は、
あえて「消費税課税事業者選択届出書」の提出して課税業者と
なる選択肢もあります。

なお、相続による事業承継の場合には、承継した息子さんの
消費税の納税義務の判定が異なりますので注意が必要です。

投稿者: 水戸聖子税理士事務所